脳卒中患者さんの嚥下障害は、特に急性期でよくみられる症状です。
嚥下障害に対して様々リハビリ方法が開発され、効果の検証がされています。
2008年の研究で、健康な人と脳卒中患者さんの口唇の筋力(唇の力)を測定した結果、脳卒中患者さんは口唇の筋力が健康な人よりも弱くなっていることが報告されました。
こういったデータから、口唇の筋力に対するリハビリが研究されています。
これを口腔神経筋トレーニング(Oral neuromuscular training)といいます。
実際、嚥下障害のある高齢者に対して口腔神経筋トレーニングを行うことで嚥下機能の改善が報告されています。
ですが、まだ脳卒中患者さんに対して有効なのかどうか、についてはデータが少ないです。
今回は、脳卒中患者さんに対する口腔神経筋トレーニングの効果を検証した2020年のランダム化比較試験を紹介します。
Hägglund P (2020) のランダム化比較試験の概要
この研究はランダム化比較試験で、急性期の脳卒中患者さんに対する口腔神経筋トレーニングの嚥下機能への効果を検証しています。
対象になったのは脳卒中発症から1週間以内の患者さんです。
患者さんは合計40人、研究に参加したのですが、40人を2つのグループに分けています。
ひとつ目のグループは口腔神経筋トレーニング群です。
こちらでは口腔神経筋トレーニングと口腔顔面感覚振動刺激を行います。
まず、口腔神経筋トレーニングの説明をします。
ざっくり説明すると、唇の筋トレのようなイメージです。
まず、患者さんはまっすぐ座ります。
続いて、マウスピースのような装置を口に咥えて、唇で押さえます。
この装置は誰かが引っ張れるようになっていて、患者さんが装置を咥えた後、セラピストが正面から5〜10秒間引っ張ります。
患者さんはその間装置が抜けてしまわないように唇にグッと力を入れて、装置を押さえます。
そうすることによって唇の筋力を鍛えることを目的にしたトレーニングです。
これは3回1セット、1日あたり3セット実施します。
一方、もう一つのグループは口腔顔面感覚振動刺激というのを実施しています。
これは電動歯ブラシを使って、口周りの筋肉や感覚を刺激するというものです。
こちらも1日3回実施されています。
両グループとも5週間実施されました。
研究のアウトカムは嚥下率、口唇の筋力、penetration-aspiration scale (PAS)、でした。
フォローアップ時点での嚥下率、口唇の力が高かった
結果として、口腔神経筋トレーニングは、口腔顔面感覚振動刺激のみと比べるとフォローアップ(12週後)時点の嚥下率、口唇の力について有意に高い成績を示しました。
嚥下率が向上するということは、嚥下機能の向上を示しています。
一方で、リハビリ終了直後についてはいずれのアウトカムについてもグループ間の有意差がありませんでした。
ですので、短期的に見るとどちらのリハビリも効果としては大きく変わらないですが、長期的にみると口腔神経筋トレーニングの方が良好な結果を示す、ということになります。
また、嚥下障害の重症度を示すPASのスコアに関しては、グループ間の有意差がなく、どちらの方が嚥下障害を改善させる上で優れたリハビリ方法であるかはわからない、という結果になりました。
長期的な効果を期待するなら口腔神経筋トレーニングか?
以上の結果から、長期的な効果を期待するなら口腔神経筋トレーニングが有効であることが示されました。
有害事象(ケガなど)の報告もありませんし、1日あたり3回3セットで良いのであれば手軽に導入できそうです。
まだ研究数が少なく、今後の研究次第では結果が変わってきたりする可能性がありますが、導入を検討してみてはいかがでしょうか!
本日は「脳卒中後の嚥下障害に対する口腔神経筋トレーニングの効果」というテーマでお話しさせていただきました。
BRAINでは脳卒中EBPプログラムというオンライン学習プログラムを運営しております。
2021年前期はおかげさまで満員御礼となりましたが、後期は10月から開始、募集は7月〜8月ごろから開始する予定です。
ご興味がある方はよかったらホームページを覗いてみてください。
それでは今日もリハビリ頑張っていきましょう!
参考文献
Hägglund P, Hägg M, Levring Jäghagen E, Larsson B, Wester P. Oral neuromuscular training in patients with dysphagia after stroke: a prospective, randomized, open-label study with blinded evaluators. BMC Neurol. 2020 Nov 7;20(1):405.