脳卒中患者さんの嚥下障害に対して、世界的には電気刺激の報告が多いです。

電気刺激を与えるときは電極を身体につける必要があります。

嚥下障害に対して電気刺激を与えるときは当然ながら喉の周りにつけることになります。

このとき、電極をどこにつけるか?ということが問題になります。

喉には、顎のすぐ下、喉の上の方に舌骨という骨があります。

この舌骨の上にある筋肉を舌骨上筋群、舌骨のしたにある筋肉を舌骨下筋群といいます。

電気刺激を行うとき、舌骨上筋群をターゲットにする場合は舌骨の上に電極を装着し、舌骨下筋群をターゲットにする場合は舌骨のしたに電極を装着します。

舌骨上筋群を電気刺激すると嚥下をサポートし、舌骨下筋群を電気刺激すると嚥下に抵抗することになります。

ですので、舌骨の上に電極をつけるなら補助しながら嚥下訓練を行うことができ、舌骨の下に電極をつけるなら筋トレのようなイメージで、抵抗に抗って強く筋肉を収縮させながら嚥下訓練を行うことができます。

嚥下障害に対する電気刺激の効果を検証した研究では、舌骨上筋群をターゲットに電気刺激を行う研究もあれば、舌骨下筋群をターゲットに電気刺激を行う研究もあります。

今回は、どちらをターゲットにした方が効果的なのか調べたOh DH (2020) のランダム化比較試験を紹介します。

Oh DH (2020) のランダム化比較試験の概要

この研究では、38人の回復期脳卒中患者さんを2つのグループに分け、それぞれのグループで電気刺激+嚥下訓練の効果を検証しています。

ひとつ目のグループは電気刺激を舌骨上筋群に与えながら嚥下訓練をするグループ、もうひとつのグループは電気刺激を舌骨下筋群に与えながら嚥下訓練をするグループ、です。

どちらのグループも、電気刺激は経皮的電気刺激(TENS)とし、grabbingという掴まれるような感覚が生じるくらいの強度で実施しています。

また、電気刺激を与えながら唾液もしくは少量の水を飲むという嚥下訓練を行なっています。

この電気刺激+嚥下訓練を30分、週5日、4週間実施しています。

これに加え、従来の嚥下訓練として温熱・触覚刺激や各種エクササイズなども実施してます。

アウトカムとしては嚥下障害の重症度としてVideofluoroscopic Dysphagia Scale (VDS)、penetration-aspiration scale (PAS)、Functional Oral Intake Scale(FOIS)、を使用しています。

どちらのグループも4週間後の嚥下障害は向上していた

結果として、リハビリの前後でみてみると、どちらのグループも全てのアウトカムにおいて向上していました。

ですので、舌骨上筋群に電気刺激を行なっても、舌骨下筋群に電気刺激を行なっても嚥下障害は向上する可能性が高いです。

気になるグループ差なのですが、舌骨上筋群グループの方が、介入終了時のPASスコアが低値(低値の方が良い状態を示します)であることが明らかになりました。

PASについて深掘りして紹介します。

PASはVF検査のときの嚥下の状態を1〜8でスコアリングするアウトカム指標です。

1が嚥下障害がないことを、8が重度の嚥下障害があることを示します。

歩行でいうFunctional Ambulation Categories (FAC)、日常生活動作でいうFunctional Independence measure (FIM)、のようなものです。

舌骨下筋群をターゲットにしたグループは、リハビリ前のPASスコアが平均4.92だったのに対し、リハビリ後のPASスコアが平均3.33になっていました。

一方、舌骨上筋群をターゲットにしたグループでは、リハビリ前のPASスコアが平均5だったのに対し、リハビリ後のPASスコアが平均2.07になっていました。

およそ1レベル程度、舌骨上筋群グループの方が向上していました。(統計的有意差あり)

強いていうなら舌骨上筋群か

この研究から、2つのことがわかります。

①舌骨上筋群をターゲットにしても、舌骨下筋群をターゲットにしても、電気刺激(TENS)+嚥下訓練は嚥下障害の向上に貢献する
②舌骨上筋群をターゲットにした方がPASスコアの向上を期待できる

ですので、どちらか選ぶのであれば舌骨上筋群をターゲットにする方が望ましいかと思います。

一方、個人的には ”強いて言うなら” くらいの差だと思いますので、患者さんの価値観や好み、セラピストのリスク管理やその他のエビデンスを踏まえて総合的に判断する必要がありそうです。

舌骨上筋群への電気刺激も、舌骨下筋群への電気刺激も、どちらのオプションも持っているセラピストに慣れれば、患者さんのリハビリの選択肢が増え、より良い意思決定ができます。

まずはこういったエビデンスを押さえておきましょう!

本日は「脳卒中後の嚥下障害に対する電気刺激は舌骨の上か下か?」というテーマでお話しさせていただきました。

BRAINでは脳卒中EBPプログラムというオンライン学習プログラムを運営しております。

2021年前期はおかげさまで満員御礼となりましたが、後期は10月から開始、募集は7月〜8月ごろから開始する予定です。

ご興味がある方はよかったらホームページを覗いてみてください。

それでは今日もリハビリ頑張っていきましょう!

参考文献

Oh DH, Park JS, Kim HJ, Chang MY, Hwang NK. The effect of neuromuscular electrical stimulation with different electrode positions on swallowing in stroke patients with oropharyngeal dysphagia: A randomized trial. J Back Musculoskelet Rehabil. 2020;33(4):637-644.