嚥下障害に対するリハビリはいくつもあります。

主に国内で言語聴覚士さんが行なっている行動性嚥下療法(嚥下練習、嚥下のアドバイス、ポジショニングなど)は世界的に有効性が報告されています。

行動性嚥下療法の中に、呼吸筋トレーニングが含まれます。

呼吸筋トレーニングというのはその名前の通り、呼吸に関わる筋肉を鍛えるトレーニングです。

マウスピースのような装置を口に加え、息を吸ったり吐いたりするときに抵抗をかけることで呼吸筋を鍛えます。

また、行動性嚥下療法をサポートするために、神経筋電気刺激(NMES)が併用されることがあります。

舌骨の上に電極をつけて嚥下をサポートする場合や、舌骨のしたにつけて嚥下に抵抗をかけ、筋トレのように嚥下練習をするパターンがあります。

呼吸筋トレーニングも、電気刺激と嚥下練習の組み合わせも、言語聴覚士さんが比較的行いやすいリハビリです。

また、世界的には嚥下障害の研究ではpenetration-aspiration scale (PAS)やVideofluoroscopic Dysphagia Scale (VDS) を用いて、VFを実施している最中の嚥下状態を評価することが多いです。

これらは客観的に、嚥下の状態を評価する上で有用です。

ただ、PASやVDSでは拾えない変化もあります。

例えば、PASやVDSのスコアではよくなっているとは言えないものの、食事中や食後の血中酸素飽和度が低下しなくなった、とかそういう変化です。

今回紹介する研究は、呼吸筋トレーニングや電気刺激+嚥下練習により、こういったSwallowing security signsの変化があるかどうかを調べた研究です。

Guillén-Solà A (2017) のランダム化比較試験の紹介

本日紹介するのはGuillén-Solà A (2017) のランダム化比較試験です。

合計62人の急性期脳卒中患者さんを3グループに分けています。

ひとつ目のグループは「標準的な嚥下療法群」です。

このグループでは舌の動きを改善するための口腔運動、嚥下アドバイスなどを行なっています。

ふたつ目のグループは「吸気・呼気筋訓練群」です。

このグループでは標準的な嚥下療法に加え、Orygen Dual Valveという装置を使い、呼吸筋トレーニングを実施しています。

みっつ目のグループは「電気刺激+嚥下訓練群」です。

このグループでは標準的な嚥下療法と偽・吸気・呼気筋訓練群に加え、電気刺激+嚥下訓練群を行なっています。

電気刺激は舌骨上筋群に与えられています。

舌骨上筋群への電気刺激は嚥下をサポートする刺激です。

これらのリハビリを週5回、3週間実施しました。

なお、アウトカムとしてPASなどの客観的な検査バッテリーが使われていたのですが、それ以外にSwallowing security signsというアウトカムが採用されています。

これは食事中・食後の声のトーンの変化、咳、血中酸素飽和度の3%以上の低下を示す場合にsignあり、と判定します。

セラピストの確認によるものなので、セラピストの主観が入ってしまう可能性があるのですが、臨床的な検査の仕方として興味深いです。

そして、3週間それぞれのリハビリを実施した結果、標準的な嚥下療法グループと比べ、呼吸筋トレーニング、電気刺激+嚥下療法を実施したグループでは、Swallowing security signsを示す人の人数が減少しました。

PASやVDSも、臨床観察評価も大事

以上、研究の紹介をさせていただきました。

世界的にはPASやVDSで嚥下障害の状態、重症度が評価されることが多いですが、これらでは拾えないような変化が患者さんには起こっているかもしれません。

リハビリでは患者さんの状態を適切にとらえるための客観的な検査バッテリーを使うことが大事ですし、そもそもEBPの上では世界的に使用されているアウトカム指標を使うことが大事です。

ただ、食事のときに確認できる行動観察による検査・測定をしなくていいというわけではありません。

VF検査の時と普段の食事のときは課題や環境が異なりますので、実際の食事場面でどうなのか確認しておくことも大事です。

患者さんの食事を確認しにいきましょう!

本日は「脳卒中後の嚥下障害に対する呼吸トレ・電気の効果」というテーマでお話しさせていただきました。

BRAINでは脳卒中EBPプログラムというオンライン学習プログラムを運営しております。

2021年前期はおかげさまで満員御礼となりましたが、後期は10月から開始、募集は7月〜8月ごろから開始する予定です。

ご興味がある方はよかったらホームページを覗いてみてください。

それでは今日もリハビリ頑張っていきましょう!

参考文献

Guillén-Solà A, Messagi Sartor M, Bofill Soler N, Duarte E, Barrera MC, Marco E. Respiratory muscle strength training and neuromuscular electrical stimulation in subacute dysphagic stroke patients: a randomized controlled trial. Clin Rehabil. 2017 Jun;31(6):761-771.