脳卒中患者さんとのリハビリで、電気刺激は使っていますか?
電気刺激は、上肢の運動障害や運動パフォーマンス、肩の亜脱臼や肩の痛みなどに対して有効であるということが、世界的に報告されています。
ただ、電気刺激をやればなんでもいいというわけではありません。
電気刺激のタイプ(神経筋電気刺激、経皮的電気刺激、筋電トリガー式電気刺激など)や電気刺激のパラメータ(周波数、パルス幅、刺激強度など)、ターゲット(神経を狙うか筋腹を狙うかなど)など、適切な条件設定が求められます。
どういった条件が、どういう患者さんに対して効果的なのか、について知るためにはランダム化比較試験をひとつひとつ読み解いていく必要があります。
今回は、回復期の患者さんに対して筋電トリガー式電気刺激が有効だったと報告したZhou YX (2017) のランダム化比較試験を紹介します。
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Zhou YX (2017) のランダム化比較試験
まず、Zhou YX (2017) のランダム化比較試験を紹介します。
この研究は、回復期の脳卒中患者さん42人を対象に、どのような電気刺激が有効なのか調べました。
42人を2つのグループに分けています。
ひとつ目のグループは「筋電トリガー式電気刺激」グループです。
筋電トリガー式電気刺激とは、対象者自身が起こした自動運動のときに生じる筋活動電位を拾い、トリガーにし、電気を流す電極から電気刺激を与えるというものです。
日本ではIVESという筋電トリガー式電気刺激が有名です。
自分が動かそうとした時に、その運動をアシストしてくれるように電気刺激が与えられます。
研究では、この筋電トリガー式電気刺激を尺側手根伸筋と総指伸筋を狙い、電気刺激を与えました。
筋電を拾う電極は非麻痺側につけられ、電気を流す電極は麻痺側につけられました。
刺激の強度は、痛みがない範囲で最大の可動域が得られるように設定されました。
この状態で、両手を背屈させたり、手指を伸展させる運動をそれぞれ繰り返しました。
なお、こちらのグループでは両手の自動運動を行なっていることになります。
一方、もうひとつのグループは「神経筋電気刺激」グループでした。
こちらは、エスパージのような機械を使用し、オンとオフ、つまり電気が流れる・電気が止まる、という切り替えを電気刺激装置が行います。
電極の位置や刺激のパラメータ設定、運動の種類(手関節背屈と手指伸展)は同じなのですが、こちらのグループでは電気刺激装置による、麻痺手だけの他動運動を行なっています。
したがって、2つのグループの違いは、次の通りになります。
①筋電トリガー式電気刺激か神経筋電気刺激か
②両手の運動か片手(麻痺手)のみの運動か
③自動運動か他動運動か
これらのリハビリを20分、週5回、4週間実施しました。
筋電トリガー式電気刺激+自動運動により運動障害が大きく改善
結果として、筋電トリガー式電気刺激グループはFugl-Meyer Assessment Upper Extremity(以下、FMAUE)の平均スコアがリハビリ前は20.8 (8.0)だったのに対し、リハビリ後は39.1 (2.0)になりました。
一方、神経筋電気刺激グループはFMAUEの平均スコアが15.2 (8.6) から 30.4 (2.0) に変化しました。
グループ間の統計的有意差が認められ、筋電トリガー式電気刺激グループの方が大きい改善を示しました。
つまり、筋電トリガー式電気刺激グループの方が、上肢の運動障害が良くなっていたことを意味しています。
筋電トリガー式電気刺激・自分の意思で動かす・両手運動のどれが有効なのか
この研究ではまだわからないことがあります。
筋電トリガー式電気刺激グループが大きな効果を得られた理由として次の3つが考えられます。
①筋電トリガー式電気刺激が有効だったのかもしれない
②両手の運動が有効だったのかもしれない
③自動運動が有効だったのかもしれない
ふたつのグループが②③について同じ条件であれば筋電トリガー式電気刺激が有効だったと言えますが、そうではないので、何が有効だったのかはわかりません。
この点については今後の研究に期待がかかります。
一方で、筋電トリガー式電気刺激+両手の自動運動が、神経筋電気刺激+麻痺手の他動運動よりも有効であったことは間違いないです。
筋電トリガー式電気刺激をお持ちの方は、本記事で紹介した電気刺激のプロトコルを活用してみてはいかがでしょうか!
本日は「脳卒中リハビリの電気刺激で筋電トリガー式電気刺激が有効か?」というテーマでお話しさせていただきました。
BRAINでは脳卒中EBPプログラムというオンライン学習プログラムを運営しております。
2021年前期はおかげさまで満員御礼となりましたが、後期は10月から開始、募集は7月〜8月ごろから開始する予定です。
ご興味がある方はよかったらホームページを覗いてみてください。
それでは今日もリハビリ頑張っていきましょう!
参考文献
Zhou YX, Xia Y, Huang J, Wang HP, Bao XL, Bi ZY, Chen XB, Gao YJ, Lü XY, Wang ZG. Electromyographic bridge for promoting the recovery of hand movements in subacute stroke patients: A randomized controlled trial. J Rehabil Med. 2017 Aug 31;49(8):629-636.