脳卒中リハビリのひとつにミラーセラピーという方法があります。
これは鏡を使って、あたかも麻痺している側の腕・手や足が動いているかのように錯覚させるリハビリです。
リハビリを受ける患者さんからすると『リハビリっぽくない』という印象があるかもしれませんが、世界的に有効性が報告されています。
本記事では、脳卒中当事者の方へ向けて、脳卒中リハビリにおけるミラーセラピーについて解説します。
情報の信頼性について
・本記事はBRAIN運営責任者/理学療法士の針谷が執筆しています(筆者情報は記事最下部)。
・リハビリの効果や注意点に関しては、信頼性の高いシステマティックレビュー研究、ランダム化比較試験から得られたデータを引用しています。
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脳梗塞リハビリにおけるミラーセラピーとは?
最初に本記事のまとめです。
- ミラーセラピーとは、鏡を使って運動錯覚を起こさせるリハビリ
- 腕や手のリハビリとしても、足のリハビリとしても有効
- 重度の運動障害を持つ患者さんも実施することができる
ミラーセラピーは、鏡を使って運動錯覚(あたかも麻痺した身体が動いているかのように感じること)を起こすリハビリです。
腕や手のリハビリとしても、足のリハビリとしても使用することができます。
以下、詳しく紹介します。
ミラーセラピーのやり方を紹介
『鏡を使って運動錯覚を起こす』と言われても、ミラーセラピーを経験したことのない方であればイメージが湧きにくいと思いますので、最初にやり方を紹介します。
<手順>
- 患者さんが椅子に座る
- 麻痺していない側の身体が鏡に写るようにし、両手(もしくは両足)の間に鏡を挟む
- 鏡に写った手や足があたかも麻痺側に見えるように、鏡の位置や角度を調整する
- 患者さんは鏡を覗き込み、鏡に写った手や足に注意を向ける
- 麻痺していない側の身体を動かし、患者さんは鏡に写った動いている手足を見る
- 麻痺している側の手足が動いているように思い込む
研究によって多少のやり方の違いはありますが、基本的にはこのようにしてミラーセラピーを行います。
つまり、麻痺していない側の身体の動きを鏡に反射させ、麻痺している身体がしっかり動いているように見せるリハビリです。
ミラーセラピーの効果
続いて、ミラーセラピーの効果について紹介します。
腕や手への効果
YouTube動画がありますのでよかったらご覧ください。
運動パフォーマンスへの効果
リーチ動作(手を前に伸ばす動作)、グラスプ動作(ものを掴む動作)、ピンチ動作(ものをつまむ動作)、などの複数の関節を使う運動を運動パフォーマンスと言います。
ミラーセラピーは、腕や手の運動パフォーマンスを向上させる上で有効とされています(Thieme H, 2018)。
また、発症からの経過が長い・短い場合の有効性についても検証されています。
ミラーセラピーは、発症から6ヶ月以内の患者さんに対しても、6ヶ月以降の患者さんに対しても運動パフォーマンスの向上を目指す上で有効であることが報告されています。
ただし、発症から1ヶ月以内の発症から間もない患者さんに対しては、際立って有効な効果を期待できないというデータもあります(Chan WC, 2018; Antoniotti P, 2019)。
際立って有効な効果を期待できない?
『効果がない』ということではありません。リハビリ前後でみれば状態はよくなります。ただし、両研究で比較対象になった『両側上肢訓練』と比べると高い効果があるとは言えない、ということです。言い換えると、発症から1ヶ月以内の患者さんであれば、ミラーセラピーを実施しても両側上肢訓練を実施しても同じくらいに良くなる、ということです。
運動機能への効果
指を開く・握る、指を1本ずつ動かすなどの細かい動作、単純な動作を行う機能のことを運動機能と言います。
ミラーセラピーは、運動機能の向上に対しても有効とされています(Thieme H, 2018; Zeng W, 2018)。
ただし、運動パフォーマンス同様、発症から1ヶ月以内の発症から間もない患者さんに対しては、際立って有効な効果を期待できないというデータもあります(Chan WC, 2018; Antoniotti P, 2019)。
プライミングとしての効果
近年、手のリハビリ効果を高める “プライミング” が注目されています。
プライミングとは、リハビリの準備運動として行われる『先行刺激』のことで、プライミングを行うことによってリハビリ効果が高くなることが報告されています。
プライミングのメカニズムはすべて明らかになっているわけではありませんが、手の運動神経である皮質脊髄路の活動性を高めることがその一因であることが知られています。
Kang YJ(2011)は、ミラーセラピーを行うことによって手の運動神経(皮質脊髄路)の活動性が向上することを報告しました。
つまり、課題指向型訓練などの手を動かすリハビリの準備運動としてミラーセラピーを行っておくことで、課題指向型訓練の効果を高める可能性があるということです。
脚や歩行への効果
歩行への効果
脳卒中を発症すると脚・足の運動障害やバランスの低下が生じ、それにより歩行障害(歩きにくさ)が生じます。
ミラーセラピーは、歩行速度の向上に対して有効であることが報告されています(Li Y, 2018; Broderick P, 2018; Louie DR, 2019; Kundi MK, 2023)。
また、Oh ZH(2023)は、歩きかた(歩容)を改善させる上でも有効であることを報告しました。
このように、歩行をよくするために脚(足)のミラーセラピーを行うことは妥当であると言えます。
一方で、歩行自立度に対しては有効とは言えない、とされています(Li Y, 2018)。
したがって、歩行の自立を目指すのであればミラーセラピーだけでなく、他のリハビリと組み合わせる必要があります。
バランスへの効果
脳卒中を発症すると、脚・足の運動障害や感覚障害などの理由により、バランスの低下が生じます。
ミラーセラピーは、バランス向上に対して有効であることが報告されています(Li Y, 2018; Broderick P, 2018; Oh ZH, 2023)。
運動機能への効果
足首を動かす、足首と膝を別々に動かす、といった単純な動作を行う機能のことを運動機能と言います。
ミラーセラピーは、脚・足の運動機能の向上に対して有効とされています(Thieme H, 2018; Li Y, 2018; Broderick P, 2018; Louie DR, 2019)。
痙縮への効果
筋肉の緊張の高まり、こわばりを痙縮と言います。
脚・足であれば、つま先が伸びきってしまったり、膝関節が伸びきってしまうような現象が起こります。
ミラーセラピーは、痙縮に対して有効とは言えない、とされています(Li Y, 2018)。
なお、脚・足の痙縮に対しては電気刺激療法が有効とされています。
▶︎電気刺激療法について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
ミラーセラピーの効果まとめ
まとめると、ミラーセラピーの効果は以下の通りです。
- 腕や手の運動パフォーマンス、運動機能に対して有効
- 歩行速度の向上、脚・足の運動機能とバランスに対して有効
- 歩行の自立度、脚・足の痙縮に対して有効とは言えない
ミラーセラピーのメリットとデメリット
メリットとデメリットは患者さんの状況や価値観などによって異なりますが、一般的なメリットとデメリットを紹介します。
メリット
- 運動障害が重度の患者さんでも実施できる
- 脚・足の運動機能の向上を期待できる
- ホームエクササイズとして実施可能
ミラーセラピーは、麻痺していない側の身体を動かすリハビリなので、麻痺側の運動が行えない患者さんでも実施することができます。
腕や手のリハビリとして世界中で有効性が報告されているものとしてCI療法、課題指向型訓練があります。
CI療法や課題指向型訓練はある程度ご自身で身体を動かせる方でないとうまくできないという課題があるのですが、ミラーセラピーはご自身で動かすことができないほどの運動障害があったとしても行うことができます。
また、脚や歩行のリハビリでは、足首に対して短下肢装具を装着し、歩く練習やバランス練習を行うことがあります。
それでもバランスが取れるようになったり、歩けるようになったりするので足首の運動機能はリハビリの中で置き去りになってしまうことがあります。
ミラーセラピーは足の運動機能に対して有効性が報告されているので、足首の運動性を向上させたい方には光明になるのではないでしょうか。
また、ミラーセラピーはやり方を覚えてしまえばご自宅で、おひとりで行うことも可能です。
実際、ホームエクササイズとして行っても有効であるというデータがあります(Michielsen ME, 2011; Hsieh YW, 2018)。
セラピストとのマンツーマンのリハビリでは課題指向型訓練や促通反復療法(川平法)を行い、自主トレーニングとしてミラーセラピーを行う、というのもひとつの手です。
デメリット
- 集中力が続かないと難しい
- 人によっては不快感を感じる場合もある
いずれも科学的なデータがあるわけではなく、筆者の経験に基づく情報になりますのでご注意ください。
ミラーセラピーは30〜60分、鏡を見続けるリハビリです。
同じような運動を繰り返し実施するので、途中で集中が途切れてしまうことがあります。
ぼんやりした状態でミラーセラピーを行ってもミラーセラピーの効果を期待できない可能性があります。
また、人によっては不快感を感じることがあります。
これは、鏡に写った手足は動いているのに、実際は動いている身体の感覚が得られない、という感覚の不一致によるものです。
ミラーセラピーはどこで受けられる?
ミラーセラピーは、比較的どこでも受けることが可能です。
病院
入院リハビリを提供している病院では、ミラーセラピーを受けられる可能性が高いです。
また、外来リハビリでも受けられる可能性は高いです。
ただし、ミラーセラピーで使うミラーボックスや姿勢鏡がなければ行えない場合もありますのでご注意ください。
訪問看護リハビリ
訪問看護リハビリでは、ご自宅でミラーセラピーを行うことになります。
多くの場合、ミラーセラピーで使う道具は100円ショップで揃うので、ご自宅でも用意することができます。
また、担当セラピストにリハビリのやり方だけ教えてもらって、あとはホームエクササイズで実施する、という選択肢もあります。
自費リハビリ
自費リハビリを提供している施設でもミラーセラピーを受けられることがあります。
ただし、施設にミラーボックスや姿勢鏡が置いてあるかどうかは確認してみないとわかりません。
予め確認しておくことをお勧めします。
ミラーセラピーを有効活用しましょう!
ミラーセラピーは、課題指向型訓練やCI療法、歩行練習などのリハビリにはない特長があります。
ミラーセラピーだけで全ての困りごとが解決するわけではありませんが、他のリハビリと組み合わせて実施することで、+αの効果を期待できます。
お困りごとに合わせてミラーセラピーを有効活用しましょう!
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参考文献
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Zeng W, Guo Y, Wu G, Liu X, Fang Q. Mirror therapy for motor function of the upper extremity in patients with stroke: A meta-analysis. J Rehabil Med. 2018 Jan 10;50(1):8-15.
Chan WC, Au-Yeung SSY. Recovery in the Severely Impaired Arm Post-Stroke After Mirror Therapy: A Randomized Controlled Study. Am J Phys Med Rehabil. 2018 Aug;97(8):572-577.
Antoniotti P, Veronelli L, Caronni A, Monti A, Aristidou E, Montesano M, Corbo M. No evidence of effectiveness of mirror therapy early after stroke: an assessor-blinded randomized controlled trial. Clin Rehabil. 2019 May;33(5):885-893.
Li Y, Wei Q, Gou W, He C. Effects of mirror therapy on walking ability, balance and lower limb motor recovery after stroke: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Clin Rehabil. 2018 Aug;32(8):1007-1021
Broderick P, Horgan F, Blake C, Ehrensberger M, Simpson D, Monaghan K. Mirror therapy for improving lower limb motor function and mobility after stroke: A systematic review and meta-analysis. Gait Posture. 2018 Jun 63:208-220.
Louie DR, Lim SB, Eng JJ. The Efficacy of Lower Extremity Mirror Therapy for Improving Balance, Gait, and Motor Function Poststroke: A Systematic Review and Meta-Analysis. J Stroke Cerebrovasc Dis. 2019 Jan;28(1):107-120.
Michielsen ME, Selles RW, van der Geest JN, Eckhardt M, Yavuzer G, Stam HJ, Smits M, Ribbers GM, Bussmann JB. Motor recovery and cortical reorganization after mirror therapy in chronic stroke patients: a phase II randomized controlled trial. Neurorehabil Neural Repair. 2011 Mar-Apr;25(3):223-33.
Hsieh YW, Chang KC, Hung JW, Wu CY, Fu MH, Chen CC. Effects of Home-Based Versus Clinic-Based Rehabilitation Combining Mirror Therapy and Task-Specific Training for Patients With Stroke: A Randomized Crossover Trial. Arch Phys Med Rehabil. 2018 Dec;99(12):2399-2407.
Saavedra-García A, Moral-Munoz JA, Lucena-Anton D. Mirror therapy simultaneously combined with electrical stimulation for upper limb motor function recovery after stroke: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Clin Rehabil. 2021 Jan;35(1):39-50.
Kundi MK, Spence NJ. Efficacy of mirror therapy on lower limb motor recovery, balance and gait in subacute and chronic stroke: A systematic review. Physiother Res Int. 2023 Apr;28(2):e1997.
Oh ZH, Liu CH, Hsu CW, Liou TH, Escorpizo R, Chen HC. Mirror therapy combined with neuromuscular electrical stimulation for poststroke lower extremity motor function recovery: a systematic review and meta-analysis. Sci Rep. 2023 Nov 16;13(1):20018.
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