脳卒中になると、運動障害や歩行障害が起こることがあります。

その原因や関連する要素の一つに「筋共縮(Muscle Co-Contraction)」という現象があります。

筋共縮は多くの脳卒中患者さんに見られますが、運動麻痺や感覚障害と比べると、あまり知られていません。

特に、上肢(腕や手)では、筋共縮を改善することで手を前に伸ばす動作(リーチ動作)などが良くなる可能性があります。

本記事では、脳卒中後の筋共縮についてわかりやすく説明します。

情報の信頼性について
・本記事はBRAIN代表/理学療法士の針谷が執筆しています(執筆者情報は記事最下部)。
・本記事の情報は、基本的に信頼性の高いシステマティックレビュー研究、ランダム化比較試験から得られたデータを引用しています。

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脳卒中後の筋共縮

最初に、本記事のポイントをまとめます。

  • 筋共縮は、同じ関節を動かす筋肉とその反対の筋肉が同時に働くこと
  • 筋共縮の評価には、筋電図を使うのが一般的
  • 上肢の筋共縮には、筋電図やロボットを使ったリハビリが有効
  • 下肢の筋共縮には、包括的な足首のトレーニングやデバイスを使ったリハビリが有効

以下、詳しく解説します。

筋共縮とは何か?

まず、筋共縮とは何か、そしてそれがどのような問題を引き起こすのかをお話しします。

筋共縮の定義

筋共縮(MCo)とは、同じ関節を動かす主な筋肉(主動作筋)と、その反対の動きをする筋肉(拮抗筋)が同時に働くことを指します(Rosa MC, 2014)。

主動作筋とは、関節を動かすときに主に働く筋肉です。

拮抗筋とは、主動作筋と反対の動きをする筋肉です。

例えば、手を天井に挙げる動作では、

  • 主動作筋:三角筋(肩の筋肉)
  • 拮抗筋:広背筋(背中の筋肉)

…となります。

筋共縮が起こると、三角筋と広背筋が同時に働くことになります。

筋共縮が問題になる理由

本来、手を挙げるときは三角筋だけが働き、広背筋は休んでいるべきです。

しかし、筋共縮が起こると、手を挙げようとしても広背筋が手を下げようとするので、うまく手が挙がりません。

この結果、次のような症状が現れることがあります。

  • 手を挙げられるけど、挙げるときに肩が硬く感じる
  • 手をグーパーできるけど、動かすときに手が硬い
  • ペットボトルに手を伸ばせるけど、肘が硬く感じる

もしこれらの症状がある場合、筋共縮が関係しているかもしれません。

最近の研究では、脳卒中患者さんが手を伸ばすとき、筋共縮のために健常者よりも上腕三頭筋(腕の後ろの筋肉)を強く使わなければならないことが報告されています(Raj S, 2020; Lackritz H, 2021; Davidowitz I, 2019; Stoeckmann TM, 2009)。

また、上肢の筋共縮は痙縮(けいしゅく)と関係があることも知られています(Ohn SH, 2013)。

脳卒中後の上肢運動障害を引き起こす要因のひとつが筋共縮です。

腕や手の動きをよくしたい場合は、筋共縮の影響があるかどうか分析する必要があります。

▶︎脳卒中後の運動障害について詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください

筋共縮は悪いことばかりではない

ただし、筋共縮自体が悪いものだとは限りません。

筋共縮には次のようなメリットもあります。

  • 関節を安定させる
  • 動作の正確さを高める
  • エネルギー効率を良くする

実際、健康な人の動作でも筋共縮は起こっています。

脳卒中後の歩行における筋共縮の役割

特に、脳卒中患者さんが歩くとき、膝や足首周りの筋共縮が歩行の安定性に役立っているという報告があります(Yuan H, 2019; Kitatani R, 2016)。

また、バランスや歩行能力が低い患者さんほど筋共縮が強く、歩行能力が高い患者さんほど筋共縮が弱いという報告もあります(Peters S, 2016)。

このように、歩行においてはむしろ筋共縮が必要なケースもあると考えられ、『筋共縮は悪いものだ』と一概には言えません。

脳卒中発症後に筋共縮が問題になる場合

ただし、脳卒中患者さんの場合、本来必要ないタイミングで筋共縮が起こり、動きを妨げることがあります。

そのため、筋共縮がその人の動作にとって問題なのかをよく考え、対応を検討する必要があります。

下肢の筋共縮に対するリハビリは必要か?
上述のように下肢の筋共縮はバランスや歩行に役立っているかもしれないことに加え、下肢の筋共縮の改善と歩行能力の向上には関係性がないとする報告もあります(Kitatani R, 2016; Den Otter AR, 2006)。つまり、筋共縮を改善させても、歩行はよくならない可能性があるということです。これらを踏まえると、下肢の筋共縮に対するリハビリをすべきかどうかは慎重に考える必要があると言えます。

筋共縮の評価方法

筋共縮を評価するには、筋電図という検査を使うのが一般的です。

筋電図を使った評価方法

筋電図は、筋肉が動くときに発生する微弱な電気信号を測定する検査です。

筋肉に小さな電極を貼り付けて、筋肉が働こうとするときに生じる電気的な活動を記録します。このデータを使って、以下の値を計算します。

  • Co-Contraction Index(筋共縮指数)
  • Temporal Correlation(時間的相関)

2021年の研究では、これら2つの指標が高い相関関係にあることが報告されており、どちらの指標を使っても問題ないと考えられています。

筋電図を使えない場合の評価方法

筋電図の機器は病院や施設によっては置いていない場合もあります。

そのため、セラピストが筋肉の活動を触診して筋共縮判断することもあります。

ただし、触診は信頼性や妥当性に難があるため、筋電図で評価するのが望ましいです。

筋共縮に対するリハビリ方法

上肢の筋共縮に対するリハビリ

腕や手の筋共縮に対しては、筋電図やロボットを使ったリハビリが有効であると報告されています(Wright ZA, 2012; Hu XL, 2013; Nam C, 2021)。

一方、筋電図やロボットを使わないリハビリ(運動イメージ療法やミラーセラピーなど)では、筋共縮の改善が見られなかったという報告もありますde Almeida Oliveira R, 2014

これらのことから、上肢の筋共縮を改善させたい場合はまず筋電図やロボットを使って、正しい運動を身体に学習させていくリハビリが望ましいと言えるでしょう。

下肢の筋共縮に対するリハビリ

下肢の筋共縮に対しては、包括的な足関節のトレーニングが有効であると報告されています(Cho JE, 2021)。

これは、ストレッチ、コントロール練習、視覚的フィードバック、筋力トレーニングを組み合わせるトレーニングであり、特殊な機器を使用しないため、病院やご自宅などどこでも行うことが可能です。

その他、以下の方法で有効性が報告されています。

ただし、ボツリヌス毒素の注射は対応している病院で受けることが可能ですが、それ以外は特殊な機器を使うため再現性に難があります。

そのため、現実的には「包括的な足首のトレーニング」が有効なリハビリ方法の一つとされています。

下肢の筋共縮は、一般的なリハビリだけでは改善しないことが報告されていますDen Otter AR, 2006

そのため、下肢の筋共縮を改善させたい場合は、上記のリハビリを組み合わせる必要があります。

まとめ

最後に、本記事のポイントをまとめます。

  • 筋共縮は、同じ関節を動かす筋肉とその反対の筋肉が同時に働くこと
  • 筋共縮の評価には、筋電図を使うのが一般的
  • 上肢の筋共縮には、筋電図やロボットを使ったリハビリが有効
  • 下肢の筋共縮には、包括的な足首のトレーニングやデバイスを使ったリハビリが有効

筋共縮は多くの脳卒中患者さんに見られる現象ですが、人によっては筋共縮が必要な場合もあります。

大切なのは、患者さん一人ひとりの筋共縮をしっかりと分析し、適切な対応を検討することです。

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参考文献

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