注意障害に対するリハビリは主に言語聴覚士の先生や作業療法士の先生が担当になる分野かと思います。

理学療法士の先生はあまり注意障害のリハビリに取り組むことがないかもしれませんが、注意機能で困っている患者さんに対しては職種に関わらず関与していっていいのではないかと思っています。

今回は注意障害に対する7つのワーキングメモリ課題について、パイロット研究ではありますがWesterberg (2007)のランダム化比較試験研究を紹介します。

注意障害と検査

注意障害とは、”必要な標的に着目して情報の入力、処理、出力を行う脳機能のプロセスに障害をきたした状態” とされています。

注意障害には構成要素があります。

①覚度
刺激に対する感受性や反応性
②配分性
同時に複数のことに注意を払う能力
③持続性
刺激に向けた注意を維持する能力
④選択性
特定の刺激だけに注意を集中させる能力

注意障害に対するリハビリ研究では、注意機能全般をみるのに加え、それぞれの構成要素に対する検査を行うことが多いです。

国内では標準注意機能検査法(Clinical Assessment for Attention:CAT)がよく使われるのではないかと思います。

これは注意機能を網羅的に評価することができるもので、とても便利です。

おそらく、どの病院・施設さんにもひとつは置いてあるのではないでしょうか。

世界的にはCATではなくIntegrated Visual and Auditory Continuous Performance Test(IVA-CPT)が使われていたりしますが、ランダム化比較試験でよくみかけるSpan testやStroop testがCATにも含まれているので、CATを使っておけば間違い無いかなと思います。

また、世界的にはTrail-Making test (TMT) AとBもよく使われます。

CATに加え、TMTもとっておくと良いのでは無いかと思います。

7種類のワーキングメモリ課題で注意機能が向上

Westerberg H (2007)は慢性期脳卒中患者さん18名に対し、7種類のワーキングメモリ課題の効果を調べました。

この研究はランダム化比較試験(※パイロット研究)でした。

7種類のワーキングメモリ課題は下記のとおりです。

①Tapping Span課題
 丸や四角などのターゲットがいくつか記載された紙を使います。
 検査者が順にターゲットをいくつか指差します。
 被験者は検査者が示した順番通り、ターゲットを指差します。
②数字逆唱課題
 検査者が読み上げた数字を、被験者は逆から読み上げます。
③文字列の記憶保持と再生課題(一文字)
 読み上げられた複数の文字を記憶し、指定された順番の文字を示します。
④文字列の記憶保持と再生課題(全文字)
 読み上げられた複数の文字を記憶し、全ての文字を示します。
⑤二種類の文字列の間違い探し課題
 1つ目が「PDA」2つ目が「PDI」だった場合、被験者は「I」を示します。
⑥Tapping Span 課題(90°回転)
 検査者によってターゲットが示された後、紙を90°回転させます。
 被験者は検査者が示した順番通りにターゲットを指差します。
⑦3D Tapping Span課題
 ①⑥が2Dであるのに対し、3Dで行われるTapping Span課題です。

図:Span testの例

この7つのワーキングメモリ課題を1日40分、週5回、5週間実施しました。

結果として、Cognitive Failure Questionnaire(CFQ)、Span board(全般性注意の検査)、 PASAT(持続性注意、配分性注意の検査)、Ruff 2&7(選択性注意の検査) (sec.)の成績が向上したことを報告しています。

お金がかからないリハビリ方法を持っておこう

注意機能へのリハビリ方針は、”回復” と “代償” に分かれます。

回復というのは注意機能そのものを良くしていこうという方針で、代償というのは注意障害を持ちながらも日常生活に適応していこうという方針です。

今回紹介した7つのワーキングメモリ課題は回復を目指す上でのリハビリの選択肢になります。

回復を目指す場合のリハビリの選択肢はいくつかあるのですが、特殊な機器を用いないと再現できないものもあります。

特殊な機器は購入しなければならず、セラピストの独断で導入の判断を行えないです。

ですので、無料で再現できるリハビリとして、今回紹介したようなリハビリの選択肢を持っておくといいのでは無いかと思います。

7つのワーキングメモリ課題は、言語聴覚士さんも、作業療法士さんも、理学療法士さんも行える課題ですので、是非導入を検討してみてください!

本日は「脳卒中後の注意障害に対する7つのワーキングメモリ課題」というテーマでお話しさせていただきました。

BRAINでは脳卒中EBPプログラムというオンライン学習プログラムを運営しております。

2021年前期はおかげさまで満員御礼となりましたが、後期は10月から開始、募集は7月〜8月ごろから開始する予定です。

ご興味がある方はよかったらホームページを覗いてみてください。

それでは今日もリハビリ頑張っていきましょう!

参考文献

Westerberg H, Jacobaeus H, Hirvikoski T, Clevberger P, Ostensson ML, Bartfai A, et al.Computerized working memory training after stroke – a pilot study. Brain Injury 2007;21(1):21–9.