嚥下障害に関するアプローチは鍼灸、行動性嚥下療法、反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)、神経筋電気刺激(NMES)など色々な方法が存在します。
このうち、日本国内の言語聴覚士の先生が主に扱っているのは行動性嚥下療法(嚥下の練習とか嚥下のためのポジショニングとか)になると思います。
国際的には嚥下障害に対する電気刺激についての研究が多くなされており、有効性が報告されています。
電気刺激には3種類あります。
ひとつ目は経頭蓋直流電気刺激(tDCS)で、頭に電気を流すタイプのものです。
ふたつ目は表面神経筋電気刺激(sNMES)で、胸骨舌骨筋などをねらって頸部前面に電極を貼り、電気刺激を行うものです。
みっつ目は咽頭電気刺激(PES)で、これは鼻から電気刺激装置付きのカテーテルを挿入し、直接、咽頭を電気で刺激するというものです。
一般的に、セラピストが自由に扱える電気刺激となると、ふたつ目の表面神経筋電気刺激になると思うのですが、今回は咽頭電気刺激の効果について、Bath PM (2016)のランダム化比較試験を紹介します。
Bath PM (2016) のランダム化比較試験の概要
研究のリサーチクエスチョンは「急性期の脳卒中患者に対する咽頭電気刺激(PES)は嚥下障害に対して有効か?」でした。
ランダム化比較試験なので患者さんを2つのグループに分けています。
ひとつ目のグループは “咽頭電気刺激群” で、鼻からカテーテルを入れて咽頭を直接電気刺激する治療を受けるグループです。
ふたつ目のグループは “偽咽頭電気刺激群” で、鼻からカテーテルを入れるのですが電気刺激を行わないグループです。
両グループともに標準的な脳卒中治療も受けています。
電気刺激は1回あたり10分、3日間連続で実施されました。
なお、アウトカムとしてpenetration-aspiration scale (PAS)を用いて嚥下障害の重症度を測定しています。
また、PAS >3レベルの人を “嚥下障害あり” とし、嚥下障害がある患者さんの割合についてもデータをとっています。
なお、このランダム化比較試験はStrokeという国際的に権威のある雑誌に採択された研究です。
PESは嚥下障害を向上させるとは言えない
結果として、咽頭電気刺激は偽咽頭電気刺激と比べると嚥下障害の重症度を改善させたり、嚥下障害患者の割合を少なくさせるとは言えない、という結果になりました。
咽頭電気刺激を行なっても行わなくても、嚥下障害の改善の程度は変わらない、ということです。
また、サブグループ解析の結果、発症14日以内および右半球損傷患者においてはコントロール群を支持するという結果になっています。
追試が望まれますが、一部の患者さんにおいては咽頭電気刺激を行わない方が良い結果になる可能性もありそうです。
コクランレビューでも否定的な結果に
ランダム化比較試験は優れた研究デザインではありますが、誤差の影響を受けますので、システマティックレビューを読んで全体を把握することが大事です。
そこで2018年に出版されたコクランレビューを見てみると、コクランレビューでも同様に咽頭電気刺激の有効性については否定的な結果になっています。
現状のエビデンスからは有効性について疑問が残るリハビリ方法になりますが、研究数が少ない影響はあると思います。
今後、研究数が増えてくることで有効なプロトコルが見つかったり、あるいは結果が変わってくる可能性もあるので、注目して研究を待ちたいです。
本日は「脳卒中後の嚥下障害に対する咽頭電気刺激について簡単に解説」というテーマでお話しさせていただきました。
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2021年前期はおかげさまで満員御礼となりましたが、後期は10月から開始、募集は7月〜8月ごろから開始する予定です。
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それでは今日もリハビリ頑張っていきましょう!
参考文献
Bath PM, Scutt P, Love J, Clavé P, Cohen D, Dziewas R, Iversen HK, Ledl C, Ragab S, Soda H, Warusevitane A, Woisard V, Hamdy S; Swallowing Treatment Using Pharyngeal Electrical Stimulation (STEPS) Trial Investigators. Pharyngeal Electrical Stimulation for Treatment of Dysphagia in Subacute Stroke: A Randomized Controlled Trial. Stroke. 2016 Jun;47(6):1562-70.
Bath PM, Lee HS, Everton LF. Swallowing therapy for dysphagia in acute and subacute stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2018 Oct 30;10(10):CD000323.