本記事では、脳卒中後の麻痺側上肢のスタンダードな検査であるFugl-Meyer Assessment Upper Extremity(以下、FMAUE)の “臨床的に意義のある最小差(minimal clinically important difference:MCID)”について、3つのエビデンスをもとに紹介しています。
最初にFMAUEについて簡単に解説します。
FMAUEというのは、Fugl-Meyer Assessmentの上肢項目のことです。
本来、Fugl-Meyer Assessmentは運動機能(上肢・下肢)、感覚、バランス、関節可動域、関節痛、の5つの項目からなる最大226点の検査で、脳卒中後の身体機能を総合的にみる検査です。
ただ、世界のリハビリ研究では、FMAの5つの項目の中から上肢項目のみ、もしくは下肢項目のみが抽出されて使用されることが多いです。
上肢項目が抽出されるときはFMAUE、下肢項目が抽出されるときはFMALEと呼ばれます。
麻痺側上肢の運動障害に関する研究では、FMAUEが使用されていることが多いです。
実際、Santisteban L (2016)の研究によると、2004年〜2015年に出版された上肢リハビリの効果を検証した研究の36%で使用されていた、と報告されています。
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研究論文などのエビデンスを参考にリハビリプログラムを立案する場合、FMAUEを理解しておくと、「このリハビリは目の前の患者さんに適応できるか?」とか「このリハビリを行った場合、患者さんはどれくらい良くなるか?」といった判断がしやすくなります。
以前の記事でもお伝えしましたが、Evidence Based Practice・Medicineを進める場合はまず「世界基準の評価を自分も使う」ことが大事です。
一方、MCIDは、minimal clinically important differenceの略で、日本語だと臨床的に意義のある最小差、とされています。
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ざっくりとした説明ですが、MCIDを把握しておくことで患者さんへのリハビリ効果の説明が行いやすくなったり、リハビリプログラム継続もしくは変更の判断を行いやすくなります。
本記事ではFMAUEのMCIDについて、亜急性期、慢性期という病期別に紹介します。
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脳卒中リハの評価で使われるFMAUEのMCID
亜急性期
Arya KN (2011) は、平均年齢52.41歳くらいの亜急性期の脳卒中患者さんを対象に、modified Rankin Scaleをアンカーにした時のMCIDとして “9” を、患者さんの主観的な変化(患者さんが主観的に変化したと感じるかどうか)をアンカーにした時のMCIDとして “10” をそれぞれ報告しています。
また、Hiragami (2019) は、平均年齢67.8歳くらいの亜急性期の脳卒中患者さんを対象に、患者さんの主観的な変化をアンカーにした時のMCIDとして “12.4” を報告しています。
Arya KN (2011) の研究ではROC曲線を用いていますが、Hiragami (2019)の研究では変化群と不変化群の平均値の差を用いてそれぞれMCIDを算出していることや、対象者の年齢、重症度といった属性の違いがあるため、MCIDにも若干の違いが生じているものと思われます。
慢性期
Page (2012) は、平均年齢57歳くらいの慢性期脳卒中患者さんを対象に、上肢全体の運動機能に対する療法士の主観的な変化(療法士が主観的に変化したと感じるかどうか)をアンカーにした時のMCIDとして “5.25” を報告しています。
グラスプ能力の改善をアンカーにした時は “4.25”、リーチ能力の改善をアンカーにした時は”7.25” など、”何が変化したのか” によってMCIDも若干変化するのが興味深いところです。
まとめると、次の通りです。
①亜急性期の脳卒中患者さんにおけるFMAUEのMCIDは9〜12.4
②慢性期の脳卒中患者さんにおけるFMAUEのMCIDは4.25〜7.25
病期別にMCIDを有効活用しよう
MCIDを決定づける要素として、サンプル(対象者)、方法、アンカーの3つがあります。
今回紹介したMCIDがそれぞれ異なる数値なのは、それはサンプルや方法、アンカーが異なるためです。
自分が担当する患者さんが、亜急性期の患者さんなのか、慢性期の患者さんなのか、また“どの能力の変化をみるか” によって参考にするMCIDを変えてみていただけたらと思います。
今回紹介した内容が臨床のセラピスト、患者さんに役立つ情報になれば嬉しいです。
参考文献
Santisteban L, Térémetz M, Bleton JP, Baron JC, Maier MA, Lindberg PG. Upper Limb Outcome Measures Used in Stroke Rehabilitation Studies: A Systematic Literature Review. PLoS One. 2016 May 6;11(5):e0154792.
Arya KN, Verma R, Garg RK. Estimating the minimal clinically important difference of an upper extremity recovery measure in subacute stroke patients. Top Stroke Rehabil. 2011 Oct;18 Suppl 1:599-610.
Hiragami S, Inoue Y, Harada K. Minimal clinically important difference for the Fugl-Meyer assessment of the upper extremity in convalescent stroke patients with moderate to severe hemiparesis. J Phys Ther Sci. 2019 Nov;31(11):917-921.
Page SJ, Fulk GD, Boyne P. Clinically important differences for the upper- extremity Fugl-Meyer Scale in people with minimal to moderate impairment due to chronic stroke. Phys Ther. 2012 Jun;92(6):791-8.