脳出血や脳梗塞(以下、脳卒中と言います)を発症すると運動麻痺(うんどうまひ)が表れます。

運動麻痺のリハビリ方法のひとつに『促通反復療法(川平法)』があります。

川平法は、2011年にNHKスペシャルで取り扱われてから一躍有名になりました。

BRAINにも川平法を行なってほしいというお問い合わせやご要望は数多く寄せられています。

しかし、川平法はあくまでも数あるリハビリ方法のひとつです。

ご利用者様にとって、『本当に川平法がベストなリハビリなのか?』を判断するため、エビデンスは欠かせません。

今回は、2010年から2022年までに発表された、川平法の効果を検証したエビデンスを8本まとめ、紹介させていただきます。

情報の信頼性について
・本記事はBRAIN代表/理学療法士の針谷が執筆しています(執筆者情報は記事最下部)。
・本記事の情報は、基本的に信頼性の高いランダム化比較試験、クロスオーバー試験から得られたデータを引用しています。

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川平法(促通反復療法)のリハビリ効果

最初に結論です。

  • 手のリハビリとしても脚(足)のリハビリとしても有効
  • 反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)や電気刺激、ボツリヌス注射と組み合わせると効果が上がる
  • セラピストの技量によって効果が変わる可能性がある

以下、詳しく説明します。

促通反復療法と川平法の違いとは?

リハビリ効果の説明の前に、『促通反復療法』と『川平法』の違いについて説明します。

インターネット上の情報では、よく『促通反復療法(川平法)』と記載されているのを見かけると思います。

促通反復療法も川平法も、同じリハビリ方法を指しています。

促通反復療法(Repetitive Facilitative Exercise:RFE)は、学術的な名称です。

学術論文では『促通反復療法(英語論文ではRepetitive Facilitative Exercise / Repetitive Facilitation Exercise:RFE)』という言葉で表現されています。

それに対し、川平法は、2016年に登録された商標としての名称です(登録5894295)。

2011年にNHKスペシャルで特集された際は、開発者である川平和美先生による『川平法』として紹介されていたため、『促通反復療法』よりも『川平法』という名称の方がよく知られています。

ですが、繰り返しになりますがリハビリ方法としては同じものを指しています。

本記事では以下、促通反復療法(川平法)として記載します。

手のリハビリ効果

促通反復療法(川平法)は、脳卒中後の手のリハビリとして有効であることが複数の研究から報告されています。

促通反復療法(川平法)のみの効果

2010年の研究によると、促通反復療法を2週間実施することによって、手の運動機能がよくなったことが報告されています。

なお、この研究では、促通反復療法は1日に5~8種類の運動を各100回反復して行われています。

また、2013年の研究によると、回復期の脳卒中患者さんに対し、促通反復療法を1日40分、週5回、4週間実施することによって、手の運動機能がよくなったことが報告されています。

また、手をまっすぐに伸ばすリーチ動作や物体をつかむグラスプ動作などの『運動パフォーマンス』の成績も向上していることが報告されました。

このことから、促通反復療法(川平法)は、麻痺した手の運動性を改善させ、実用的な動作を獲得する上で有効なリハビリと言えます。

反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)+促通反復療法(川平法)の効果

上述の通り、促通反復療法(川平法)のみでリハビリを実施する場合も有効であることが報告されています

ただし、反復経頭蓋磁気刺激(repetitive Transcranial Magnetic Stimulatuion:rTMS)と組み合わせることでさらに大きい効果を期待できます。

2013年の研究によると、反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)と促通反復療法を組み合わせることによって、慢性期脳卒中患者さんの手の運動パフォーマンスがよくなったことが報告されています。

特にリーチ動作やグラスプ動作などの実用的な運動の成績が向上したことが報告されており、手を生活で使えるようになりたい方にとっては良い知らせと言えます。

なお、TMSにつきましてはこちらの記事をご覧ください。

電気刺激と促通反復療法(川平法)の組み合わせは重度運動障害に対し有効

運動麻痺の重症度はひとりひとり異なります。

Fugl-Meyer Assessment Upper Extremity(以下、FMAUE)という検査で、66点満点中、20点以下の状態を『重度運動障害』ということがあります。

重度運動障害に対するリハビリのエビデンスは比較的少なく、難渋することが多いです。

実際、促通反復療法(川平法)も、重度運動障害に対しては有効とは言えないというデータがあります。

しかし、促通反復療法(川平法)に電気刺激を加えることによって重度運動障害を改善させたという報告があります。

2014年の研究では、回復期にて重度運動障害(FMAUE≦20点)を有する脳卒中患者さんに対し、電気刺激と促通反復療法を組み合わせることによって手の運動機能がよくなったことを報告しました。

また、2022年に2014年の研究の追試が行われ、より多い人数を対象にし、本当に電気刺激と促通反復療法の組み合わせが重度運動障害を改善させることを報告しました。

このように、重度運動障害をお持ちの患者さんでも、電気刺激+促通反復療法によって手の動きの改善が期待できると言えます。

運動麻痺の重症度はどうやって判断する?
重症度は上述のFMAUE検査を通して数値で判断するのが基本ですので、担当セラピストさんに数値を聞いてみてください。ただし、あくまでも目安ですが、『手首から先を全く動かせない』状況だと重度運動障害に該当することが多いです。

rTMSと電気刺激+促通反復療法の効果

2019年の研究によると、rTMSと電気刺激を行ったあとに促通反復療法を行うことで、手の運動機能がより大きく改善することを報告しました。

電気刺激は『神経筋電気刺激(NeuroMuscular Electrical Stimulation:NMES)』というタイプが用いられています。

電気刺激の詳細につきましては、こちらの記事をご覧ください。

ボツリヌス毒素+促通反復療法の効果

2022年の研究によると、促通反復療法を行う前にA型ボツリヌス毒素(BoNT-A)注射を行うことによって、手の運動機能の向上に加え、痙縮の改善も認められることが報告されました。

近年の研究によりますと、脳卒中を発症された方が麻痺した手をうまく伸ばせなくなる(リーチ動作ができなくなる)原因として、『肘関節の痙縮』が挙げられています。

言い換えると、肘関節の痙縮を改善させることによって、まっすぐ手を伸ばせるようになる可能性があるということです。

BoNT-A注射は痙縮を改善させる治療法として世界的に有効性が実証されており、日本脳卒中学会が出版している脳卒中治療ガイドライン2021でも痙縮の治療として推奨されています。

促通反復療法のみでは痙縮の改善は難しいようですが、BoNT-A注射を併用することで肘関節の痙縮を改善させ、手をまっすぐ伸ばす動作の獲得に近づけると言えます。

その他の促通反復療法(川平法)の有効性

2016年の研究では、

  • 促通反復療法+rTMS
  • 電気刺激+振動刺激
  • rTMS+電気刺激+振動刺激

の3パターンのリハビリ方法を比較検討しました。

2週間リハビリを実施した結果、いずれのグループも同程度の手の運動機能向上が認められました。

つまり、3つのリハビリパターンにおいて、効果の大きさにおける優劣があるとは言えず、どのリハビリパターンを選んでもよいという結果になりました。

歩行・脚に対する効果

手のリハビリと比べると、歩行・脚のリハビリとしての有効性を検証した研究は少ないですが、有効性は報告されています。

2017年の研究によると、発症から6ヶ月以上経過した慢性期脳卒中患者さんに対する促通反復療法と短下肢装具を使った歩行練習を1日あたり40分、週6回、4週間行い、脚(足)の運動機能や歩行能力が向上したことを報告しました。

このことから、脚(足)のリハビリとして促通反復療法(川平法)を行うことは妥当であると言えます。

促通反復療法(川平法)の注意点

以上、促通反復療法(川平法)のエビデンスを紹介させていただきました。

いずれも有効性を認めているデータが揃っています。

一見すると、促通反復療法(川平法)に欠点がないように見えますが、注意点もあります。

エビデンスが偏っている可能性がある

促通反復療法(川平法)のエビデンスは、ほとんど全てが川平法研究チームから発表されており、情報が偏っている可能性があります。

通常、リハビリの有効性を調べた研究は、『有効性を報告した研究』と『有効性を否定した研究』がどちらも存在します。

この理由は①万能なリハビリが存在しないから②偶然による誤差の影響で結果が出ないことがある、の2つがあります。

本当に効果的なリハビリであったとしても、 “必ず” 結果が出るわけではない、というのが普通です。

しかし、促通反復療法(川平法)のエビデンスは全てが有効性を認めた報告となっており、情報が偏っている可能性を否めません。

情報の偏りをなくすためには、世界中の医療機関や大学など、複数の研究チームからのエビデンスが出揃う必要があります。

今後、川平法研究チーム以外の研究チームからエビデンスがたくさん出てくると、促通反復療法(川平法)の本当の効果が見えてくるかもしれません。

促通反復療法(川平法)の効果はセラピストの力量に依存する可能性がある

筆者自身、促通反復療法(川平法)の講習会に参加したことがありますが、促通反復療法(川平法)におけるセラピストの力量差はとても大きいです。

促通反復療法(川平法)を10年続けているセラピストによる施術と、初学者による施術は効果も大きく異なることが予想されます。

このことから、『促通反復療法(川平法)を受ければよい』というわけではなく、『熟練したセラピストから促通反復療法(川平法)を受けるのがよい』という理解をお持ちいただくのがよいのではないかと思います。

なお、BRAINでは川平先端リハラボで川平和美先生のもとでリハビリをしていた作業療法士の佐々木由紀恵先生と提携し、世田谷店舗にて本格的なrTMS+促通反復療法(川平法)を提供しております。

また、訪問リハビリでは佐々木先生から指導を受けている脳卒中認定理学療法士、認定作業療法士がご自宅で電気刺激や振動刺激を併用しながら促通反復療法(川平法)を実施しています。

本格的な促通反復療法(川平法)を受けたい、という方はよかったらお問い合わせください。

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参考文献

Kawahira K, Shimodozono M, Etoh S, Kamada K, Noma T, Tanaka N. Effects of intensive repetition of a new facilitation technique on motor functional recovery of the hemiplegic upper limb and hand. Brain Inj. 2010;24(10):1202-13.

Shimodozono M, Noma T, Nomoto Y, Hisamatsu N, Kamada K, Miyata R, Matsumoto S, Ogata A, Etoh S, Basford JR, Kawahira K. Benefits of a repetitive facilitative exercise program for the upper paretic extremity after subacute stroke: a randomized controlled trial. Neurorehabil Neural Repair. 2013 May;27(4):296-305.

Etoh S, Noma T, Ikeda K, Jonoshita Y, Ogata A, Matsumoto S, Shimodozono M, Kawahira K. Effects of repetitive trascranial magnetic stimulation on repetitive facilitation exercises of the hemiplegic hand in chronic stroke patients. J Rehabil Med. 2013 Sep;45(9):843-7.

Etoh S, Noma T, Takiyoshi Y, Arima M, Ohama R, Yokoyama K, Hokazono A, Amano Y, Shimodozono M, Kawahira K. Effects of repetitive facilitative exercise with neuromuscular electrical stimulation, vibratory stimulation and repetitive transcranial magnetic stimulation of the hemiplegic hand in chronic stroke patients. Int J Neurosci. 2016 Nov;126(11):1007-12.

Tomioka K, Matsumoto S, Ikeda K, Uema T, Sameshima JI, Sakashita Y, Kaji T, Shimodozono M. Short-term effects of physiotherapy combining repetitive facilitation exercises and orthotic treatment in chronic post-stroke patients. J Phys Ther Sci. 2017 Feb;29(2):212-215.

Etoh S, Kawamura K, Tomonaga K, Miura S, Harada S, Noma T, Kikuno S, Ueno M, Miyata R, Shimodozono M. Effects of concomitant neuromuscular electrical stimulation during repetitive transcranial magnetic stimulation before repetitive facilitation exercise on the hemiparetic hand. NeuroRehabilitation. 2019;45(3):323-329.

Hokazono A, Etoh S, Jonoshita Y, Kawahira K, Shimodozono M. Combination therapy with repetitive facilitative exercise program and botulinum toxin type A to improve motor function for the upper-limb spastic paresis in chronic stroke: A randomized controlled trial. J Hand Ther. 2022 Oct-Dec;35(4):507-515.

Ohnishi H, Miyasaka H, Shindo N, Ito K, Tsuji S, Sonoda S. Effectiveness of Repetitive Facilitative Exercise Combined with Electrical Stimulation Therapy to Improve Very Severe Paretic Upper Limbs in with Stroke Patients: A Randomized Controlled Trial. Occup Ther Int. 2022 Apr 27;2022:4847363.